途上国適合型住宅の開発に関する基礎的考察
水野 二十一, 瀬尾 文彰, 飯場 正紀, 石坂 公一, 大坂谷 吉行,
加藤 博人, 小玉 祐一郎, 須田 松次郎, 寺井 達夫
建築研究資料 No.68, 1990, 建設省建築研究所
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<概要> |
本研究は,開発途上国に適合する住宅建設技術を開発する方式について,建築・住宅・都市に関わる領域から多面的に検討したものである。あるものは,モデル国についての検討・考察・資料であり,あるものは数カ国にわたる横断的な検討・考察・資料である。またあるものは,途上国の住宅建設技術を考える尺度として,日本の住宅建設技術の変革をとりまとめたものである。その意味では,考察・検討の濃淡,資料の精粗があるが,各節とも研究担当者の視点から,途上国の住宅建設の現状(技術,経済,制度など)と途上国に適合する住宅建設技術の開発のいずれかまたは双方を検討・考察したものである。
「I.途上国の住宅建設をめぐって」では,まず,インドネシアの西ジャワあるいはタイのバンコク圏を対象に,開発途上国に適合する住宅建設技術を考える場合の背景となる事象について,対象階層となる経済的な可能性についての考察,住宅建設・建設資材産業の現状と特徴,住宅供給の現状と課題を検討した。これらは,研究担当者の滞在経験があるモデル国につき,住宅建設あるいは住宅供給を考える場合の社会的・経済的な条件に関する報告・考察である。限られた国ではあるが,途上国の住宅建設・住宅供給システムの特徴をうかがい知ることができる。次いで,日本が戦後住宅建設について多様な技術を自分のものとしてきたプロセスが,途上国の住宅建設技術の開発を考える際に一つの参考資料もしくは尺度になるとの視点から,日本の住宅建設技術の変革について検討した。検討対象は,工業化住宅構法と技術経済的成立要件,部品化による在来構法の変革のプロセスである。日本の住宅建設技術が,アルミサッシュなどの住宅構成要素の部品化により,変革してきたことは良く知られた事柄である。普及の観点からは,システム的な工業化住宅構法よりはより強い影響をもたらした。このプロセスが,途上国における住宅建設技術の変革・普及においても,日本と同様に主流になると考えられる。最後に,途上国適合型住宅の開発条件について,現地の条件・入手可能な材料・技術水準の項目について整理するとともに,枠組組積造を例として,構造設計法確立のプロセスに関してケーススタディを行った。
「II.途上国適合型都市集合住宅構法の検討」では,まず,アンケート調査と文献調査により,トルコ,インドネシア,ネパール,中国チベット地域,インド,チリ,ペルーの住宅構法の現状を報告し,各種の住宅構法の特徴と途上国への適合性について考察した。次いで,途上国都市都市集合住宅構法の候補の一つとして考えられる組積造系構法,特に枠組組積造の構造上の問題点について,1985年メキシコ地震,1985年チリ地震,1976年チャルディラン地震(トルコ),1988年アルメニア・スピタク地震の震害事例から検討・考察した。さらに,チリ,イラン,インドネシア,ニュージーランド,米国,日本について地震入力の規定と組積造構造設計基準について調査した。チリ,ペルー,イラン,インドネシアについては枠組組積造の構造設計基準が一応整備されている状況である。
「III.まとめ−途上国適合型住宅の開発研究に向けて」では,各節で詳細に述べた事柄の要約を行うとともに,研究の意義と今後に必要な研究課題についてまとめた。
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